2015年2月22日

黒を白に変えたディーゼルのうわさ

「人の噂も75日」、いずれ忘れられるんだから気にするな、という意味のことわざがあるけれども、それは通りすがりで存在を忘れられる巷の人や、大量の情報投入で過去を忘れられる有名人ぐらいの話だと思う。いったん世間や組織のなかで根づいた噂は、なかなか忘れてもらえない。ソーシャルで拡散されて炎上したら、あることないことの累々と膨大な痕跡が残るから、まず消えない思ったほうがいいのかもしれない。まぁ、それと戦うタフさをもとう、ってことだね。

 

なんて思っていた新春のころ、“「ディーゼル開国」苦節15年、独ボッシュ日本法人、環境性能のPR続ける”(2015年1月30日、 日経産業新聞(藤村広平))という記事が目に入りました。わたくし運転できない伝説をいくつか持っていて、クルマといえば車載イーサネットやナビアプリぐらいにしか興味がない人間ですが、職業柄、タイトルに“PR”と入っていると読んでおかなきゃという強迫観念に駆られます。

 

 

 記事は、2014年に日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したマツダのクリーンディーゼル車、デミオに触れ、その舞台裏で15年にわたってディーゼル車が環境に悪いという世間の思い込みを変える活動を続けてきた独ボッシュ日本法人のディーゼルシステム事業部長、宗藤謙治氏を通じた同社の奮闘、健闘を描いています。

 

えっ、15年!?外資に15年勤続という時点で驚き。15年って、赤ちゃんが中学校卒業しますよ!?


と下世話なことを思いながら記憶を辿ると、そういえば1999年、石原慎太郎都知事(当時)が記者会見で黒いススの入ったペットボトルを振って、これがディーゼル車がまき散らす粒子状物質だ、これが大気汚染対策の原因といったことを言って、いかに環境に悪いかアピールするところがテレビで何度も放映されて、かなりのインパクトあったのを思い出しました。


東京都は「ディーゼル車NO作戦」と冠し、トラックやバスに対するディーゼル排ガス規制を強化しました。追って環境省は、乗用車を含む排ガス規制を段階的に強めました。呼応して自動車メーカーは国内向けディーゼル車の開発を控え、市場からディーゼル車が姿を消した、という歴史がありました。

参考:

東京都環境白書2000 - 東京都環境局

2005年7月28日 日経ビジネスEXPRESS やっぱりおかしい日本の乗用車ディーゼル規制

 

「だが、そもそもディーゼル車が燃料とする軽油はガソリンに比べて燃焼効率に優れる。ましてやボッシュは1997年、コモンレールと呼ばれる新型の燃料噴射システムを乗用車向けに実用化していた」と、日経産業新聞、藤村記者は指摘しています。

 

逆境に立たされたボッシュは、「ディーゼル=悪」と植えつけられたイメージを払拭すべく、コモンレールシステムの理解促進に向け、国会議員を招いた勉強会、環境フォーラムへの参加、メディア向け試乗会、一般消費者向けイベント、と広報活動を続けました。

 

ディーゼル車はガソリン車に比べて燃費がいい、CO2排出量が少なく環境にやさしい、維持費が低い、力強く静かでなめらかに走る、といった利点を持ちます。そこでヨーロッパでは、日本より先にディーゼル車の燃料噴射装置をコモンレール式に刷新する動きが進み、クリーンディーゼル車が主流になりました。

 

追って日本でも、まずダイムラークライスラーが2006年にベンツEクラスを販売。ほかBMWなど高級車が先鞭をつけたクリーンディーゼル車市場に、日産、三菱、マツダなどが参入。なかでもマツダは、より低価格なCX-5、アテンザに続けて昨年デミオを投入し、クリーンディーゼル車ブームを牽引しています。

 

こうしたメーカーの動きと前後して、2004年に経済産業省が主体となり識者やメーカー関係者が集まる「クリーンディーゼル乗用車の普及・将来見通しに関する検討会」が発足、2011年には有識者による「クリーンディーゼル普及促進協議会」が設立、2013年から経済産業省によるクリーンディーゼル車購入への補助金が公布されて、官民一体となった市場育成が行われています。

 

こうして、日本のディーゼル乗用車の年間新車市場は、2011年の9000台弱から、2012年には約4万台へ、さらに2014年には約7万9000台へと、(軽自動車を含む乗用車販売台数、約556万台の1%強と小規模ながらも)急拡大。さらに今年はトヨタも大型多目的スポーツ車(SUV)でクリーンディーゼル車を出すと報じられています。

 

 このクリーンディーゼル車ブームはいつまで続くのか。先進国といえるヨーロッパ各国では、クリーンディーゼル車のコスト高からガソリン車に回帰しつつあり、日本におけるクリーンディーゼル車販売の成長もいずれは終息するとみられます。が、経済産業省による次世代自動車の普及目標、乗用車新車車販売に占める割合をみると、2020年は最高5%、2030年は5〜10%となっているので、今後15年ほどは成長基調にあるのではないでしょうか。

参考:

2014年11月13日 じわじわ浸透中!クリーンディーゼル車とはどんなクルマ?

2015年2月21日 Business Journal 河村康彦「クルマ、再考」 


こうしたクリーンディーゼル車の立役者ともいえるボッシュですが、実は、カー・オブ・ザ・イヤー受賞のデミオが搭載するのはボッシュ製の燃料噴射システムではありません。それなのにデミオ受賞を喜ぶボッシュ宗藤氏。

これについて宗藤氏は、「それでもいい」「なによりディーゼルに携わる部下たちに誇りを持って働けるようにしたかった」と語っています。そしてボッシュのパンフレットでは他メーカー製の部品を採用した他車種も紹介し、クリーンディーゼル車全体の底上げを図る様が描かれています。

 

記事は、「自動車メーカーのみならず、政治・行政・消費者にも働きかけたボッシュの15年。信じた技術・製品を受け入れてもらう難しさと、逆境でも粘り強く取り組む姿勢の大切さを教えてくれている」と締めくくられています。

 

これは、くる。胸に迫ります。取材した日経産業新聞、藤村氏の唸る声が聞こえるようです。

  

涙でる〜〜〜!

 

宗藤氏の詳しい取材記事はボッシュ 宗藤謙治インタビュー(2012年10月26日オートックワン)にあります。アツいです。

 

しかし振り返ると、クリーンディーゼル車市場が立ち上がりはじめた2012年、かつてディーゼル車を実質的に市場から追い出した石原都知事(当時)は、会見で

「私は必然的にディーゼルで走るクルマが増えざるを得ないと思うし、けっこうなことだと思う」とし

 

「欧州へ行くとほとんどがディーゼルですよ。たまたまダボス会議に行ったときに渋滞でホテルまで歩いたんだが、止まっているクルマがみんなディーゼルだったが、排気ガスの臭いが日本と違うんです」「まだ、全般的なものではないが、日本の業界も工夫して協力してくれるようになった」「(ディーゼル車増加について)歴史的には必然だと思う」  

 

と、敵視から理解へと発展した、逆転発言をしています。

 

この発言に、業界の方々は複雑な思いを抱かれたのではないでしょうか...。理解を得られた感慨深さを覚えるとともに、よくもいけしゃあしゃあと、あんたのせいでいったい何人の人が冷飯くったんだ、と怒りを覚えたのではないでしょうか...。

 

ひどい〜〜〜!

 

15年間耐えたボッシュ。

そこでさきほどの疑問が。

なんで外資なのに15年間も勤めていられるのでしょう(普通は転職を何回かするのですが)。

  出典:100年経営の会 不変と革新 ボッシュ 

 

現在の日本法人ボッシュ(東京都渋谷区)のルーツは1939年創業したヂーゼル機器。ディーゼルエンジン用燃料噴射装置を国内生産する国策企業。独ロバート・ボッシュの技術を使い、合併を繰り返して社名を変えながらも日本に根ざしてやってきた、変化の中でも同社が持ち続けたのは、「人や社会とのつながり」と「チャレンジ精神」とのこと。

  

すてき〜〜!

 

わたしの広報的な勝手な推測では、クリーンディーゼル乗用車とボッシュ宗藤氏を取り上げるテレビ番組その他の仕込みが動いていておかしくないと思います。ご関係者各位のお忙しさをお察しいたします。

わたくしでよければぜひご協力させていただきたく存じます。

もはやボッシュ・ラブ、クリーンディーゼル・ラブでございます。

 

と思いながらボッシュ株式会社のサイトを見ていて思い出しました。

あれっ、わたしの前職の当時のオフィス、目の前でした。

そういえば毎日あのロゴを見ながら出社してました。

当時は主にテレコムとセミコンのクライアント業務で、寝る時間、トイレに行く時間もなくて切羽詰まってました。目下のクライアント以外に何が提案ができるかなんて考えられなかった。視野が狭かったんですね。

今なら、オートでもデートでもパートでもいけます。人間、成長せいちょうです。

 

そこで冒頭の噂考に戻ります。

代理店業務をしていると、悪い噂を立てられて干される人を時々見ます。

しかし実際そうした人と接すると、真面目で努力家で自暴自棄にならずに耐えて頑張っていて、ただ不遇だったりします。実際に一緒に仕事をしてみると、ただちょっと個性的だったりちょっと言動が特徴的だったりするだけで、結果にはなんら問題もなかったりする。むしろ、不誠実で仕事をしない確信犯のほうが、ソトヅラいいからぬらりくらりと噂を立てるほうに回っていて要注意だったりします。

 

個人的には、人の噂は75日、でなく、人の噂は信じるな、と言いたくなります。が、信用問題となるとそう簡単にもいかない。

しかしボッシュのクリーンディーゼル推進の歩みから、もし黒い噂を立てられても、努力と行動でそれを白くできる、と学びとることができます。

他人にネガティブキャンペーンをはられても、自からポジティブキャンペーンを継続し通したら、いずれ周囲の理解は得られる。

それは人も企業も同じこと、ソーシャルでもリアルでも本質は同じです。

  

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